【命を守る】低体温症から身を守る
川や海に転落したり雨に濡れたりした場合に体温が奪われ、最悪命を落とす危険もある「低体温症」。
どのように備えればよいのでしょうか。
(井上カメラマン)「海上保安庁の巡視船とヘリは確認できますが、観光船は見当たりません」
1年前の4月23日。楽しかったはずの時間は突然の終わりを迎えました。
「船が沈みかかっている」
豊かな自然や絶景を見るため、北海道・斜里町ウトロを出発した1隻の観光船。しかし、乗客乗員26人は全員冷たい海へと投げ出され、20人が死亡。いまも6人の行方がわかっていません。
昨年末、国の運輸安全委員会がまとめた経過報告書によると、当日の知床半島海域の海面水温は「約4℃」。この場合意識を保つことができるのは最長で30分、生存可能な時間は90分とされています。観光船は短時間のうちに沈没したとみられることから、生存のまま発見されることは困難な状況であると指摘しています。
知床の観光船事故で改めてクローズアップされた「低体温症」の危険性。そもそも「低体温症」は体温によって大きく3段階に分けられます。体温が35度近くまで下がると寒気や震えなどの症状が出始め、30度近くまで下がると意識低下や錯乱状態に。そして、最悪の場合死に至るといいます。
(日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授)「体の奥の体温が下がっていくと、私たちの体が正常に機能しなくなるのが低体温症」
先月、京都府の川で25人の乗客と4人の船頭を乗せた船が転覆した事故でも、乗っていた29人全員が川へ投げ出され「低体温症」を訴える人がでました。
(京都市消防局)「病院搬送は合計9人です。すべて女性です。低体温症が3名、打撲等の負傷が5名、気分不良が1名です」
春を迎えた本州でも起きる「低体温症」。一方で命を守るため、水中で生存できる時間を少しでも伸ばそうという研究も進んでいます。
「よーい、はじめ」
ことし2月、水温0.5度のプールで行われたのが、ドライスーツを着て15分間水に浸かる実験。すると、中に着る服によって体温の変化に差が生じ、トレーナーを着用した場合は特に背中の体温が奪われたものの、ダウンジャケットを着た場合はより長い時間体温を維持できることがわかりました。
(水難学会 斎藤秀俊会長)「おおよそでいうと1時間から3時間くらいもつ。手軽なスーツの開発に役立てたい」
また「低体温症」から身を守ることは災害時にも重要だといいます。発生が迫っているとされる千島海溝・日本海溝沖の巨大地震。道によると、冬の深夜に日本海溝で地震が起きた場合、6万6000人が低体温症の要対処者になると想定されています。
(日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授)「濡れた状態では(乾いた状態より)4〜5倍冷却効率が高まってしまう。ですから濡れた体・衣服にしないということは、夏場、大雨洪水災害から逃げるときにも重要な視点になる」
ことし2月、冬の避難所で安全に避難ができるよう訓練が行われました。この日、避難所の室温は3度でした。
(記者)「背中、腰、お尻が冷たくて、これは3分も寝ていられないです」
寝袋に入ってみますが…
(記者)「床が冷たくて耐えられないので体を動かしてみますが、どう動いても寒いです」
(記者)「これで一晩過ごせますか?」
(参加者)「無理ですね。何週間もなんて無理」
そのなか、低体温症から身を守るために導入が進んでいるのが「段ボールベッド」です。
(記者)「段ボール、意外と暖かいです」
体温維持につながるほか、床にたまった埃を吸わずに健康を保てるなど、さまざまな利点があるといいます。
(日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授)「雑魚寝をやめましょう、簡易ベッドを入れましょうというのが、これからの避難所対策には不可欠な最善策になると思う」
また北海道の場合、季節が進んでも朝晩の気温は大きく下がるため、6月までは寒冷期として低体温症のリスクが高くなるということです。
さらに環境や状況によって「低体温症」は季節を問わず脅威となります。2009年、登山客とガイドあわせて8人が低体温症によって死亡した、大雪山系トムラウシ山での遭難事故。起きたのは7月中旬のことでした。
(日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授)「真夏でも山の上であれだけたくさんの人が命を失ったということを考えれば、低体温症をどれだけ私たちが理解しなければいけないかわかる」
低体温症のリスクは屋外だけではありません。札幌市内で救急外来に勤務する医師は、自宅から低体温で搬送されてくる患者が多いと指摘します。
(国際山岳医 大城和恵医師)「私が5年分調査したものによると、69%が屋内で低体温症になっている。いま電気代や光熱費が高くなって、電気とかたくさんつけておくのは大変だと思う。私が勧めているのは湯たんぽで、お湯を使いまわせば良いですし、胸を温めて心臓から出る血液を温めてあげるイメージ」
季節や場所を問わず私たちの命にかかわるからこそ、低体温症への備えが欠かせません。
(2023年4月3日放送)
どのように備えればよいのでしょうか。
(井上カメラマン)「海上保安庁の巡視船とヘリは確認できますが、観光船は見当たりません」
1年前の4月23日。楽しかったはずの時間は突然の終わりを迎えました。
「船が沈みかかっている」
豊かな自然や絶景を見るため、北海道・斜里町ウトロを出発した1隻の観光船。しかし、乗客乗員26人は全員冷たい海へと投げ出され、20人が死亡。いまも6人の行方がわかっていません。
昨年末、国の運輸安全委員会がまとめた経過報告書によると、当日の知床半島海域の海面水温は「約4℃」。この場合意識を保つことができるのは最長で30分、生存可能な時間は90分とされています。観光船は短時間のうちに沈没したとみられることから、生存のまま発見されることは困難な状況であると指摘しています。
知床の観光船事故で改めてクローズアップされた「低体温症」の危険性。そもそも「低体温症」は体温によって大きく3段階に分けられます。体温が35度近くまで下がると寒気や震えなどの症状が出始め、30度近くまで下がると意識低下や錯乱状態に。そして、最悪の場合死に至るといいます。
(日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授)「体の奥の体温が下がっていくと、私たちの体が正常に機能しなくなるのが低体温症」
先月、京都府の川で25人の乗客と4人の船頭を乗せた船が転覆した事故でも、乗っていた29人全員が川へ投げ出され「低体温症」を訴える人がでました。
(京都市消防局)「病院搬送は合計9人です。すべて女性です。低体温症が3名、打撲等の負傷が5名、気分不良が1名です」
春を迎えた本州でも起きる「低体温症」。一方で命を守るため、水中で生存できる時間を少しでも伸ばそうという研究も進んでいます。
「よーい、はじめ」
ことし2月、水温0.5度のプールで行われたのが、ドライスーツを着て15分間水に浸かる実験。すると、中に着る服によって体温の変化に差が生じ、トレーナーを着用した場合は特に背中の体温が奪われたものの、ダウンジャケットを着た場合はより長い時間体温を維持できることがわかりました。
(水難学会 斎藤秀俊会長)「おおよそでいうと1時間から3時間くらいもつ。手軽なスーツの開発に役立てたい」
また「低体温症」から身を守ることは災害時にも重要だといいます。発生が迫っているとされる千島海溝・日本海溝沖の巨大地震。道によると、冬の深夜に日本海溝で地震が起きた場合、6万6000人が低体温症の要対処者になると想定されています。
(日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授)「濡れた状態では(乾いた状態より)4〜5倍冷却効率が高まってしまう。ですから濡れた体・衣服にしないということは、夏場、大雨洪水災害から逃げるときにも重要な視点になる」
ことし2月、冬の避難所で安全に避難ができるよう訓練が行われました。この日、避難所の室温は3度でした。
(記者)「背中、腰、お尻が冷たくて、これは3分も寝ていられないです」
寝袋に入ってみますが…
(記者)「床が冷たくて耐えられないので体を動かしてみますが、どう動いても寒いです」
(記者)「これで一晩過ごせますか?」
(参加者)「無理ですね。何週間もなんて無理」
そのなか、低体温症から身を守るために導入が進んでいるのが「段ボールベッド」です。
(記者)「段ボール、意外と暖かいです」
体温維持につながるほか、床にたまった埃を吸わずに健康を保てるなど、さまざまな利点があるといいます。
(日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授)「雑魚寝をやめましょう、簡易ベッドを入れましょうというのが、これからの避難所対策には不可欠な最善策になると思う」
また北海道の場合、季節が進んでも朝晩の気温は大きく下がるため、6月までは寒冷期として低体温症のリスクが高くなるということです。
さらに環境や状況によって「低体温症」は季節を問わず脅威となります。2009年、登山客とガイドあわせて8人が低体温症によって死亡した、大雪山系トムラウシ山での遭難事故。起きたのは7月中旬のことでした。
(日本赤十字北海道看護大学 根本昌宏教授)「真夏でも山の上であれだけたくさんの人が命を失ったということを考えれば、低体温症をどれだけ私たちが理解しなければいけないかわかる」
低体温症のリスクは屋外だけではありません。札幌市内で救急外来に勤務する医師は、自宅から低体温で搬送されてくる患者が多いと指摘します。
(国際山岳医 大城和恵医師)「私が5年分調査したものによると、69%が屋内で低体温症になっている。いま電気代や光熱費が高くなって、電気とかたくさんつけておくのは大変だと思う。私が勧めているのは湯たんぽで、お湯を使いまわせば良いですし、胸を温めて心臓から出る血液を温めてあげるイメージ」
季節や場所を問わず私たちの命にかかわるからこそ、低体温症への備えが欠かせません。
(2023年4月3日放送)
4/18(火)17:02更新